ライフスタイルがヒント?北欧諸国が幸せなわけ
「ヒュッゲ」なライフスタイルの発信元として最近話題の北欧諸国。
幸福度が高いことでも有名ですが、なぜなのか不思議に思ったことはありませんか?
本記事では北欧特有のシンプルなライフスタイルに目を向けて、幸福のヒントを探ります。
北欧に息づく概念
最近では日本語の「生き甲斐」が「IKIGAI」として概念ごと輸出されていますが、逆に北欧言語で日本に輸入されている言葉もあります。
居心地の良さを表現する言葉たち
北欧に興味のある方ならきっと聞いたことがある言葉「ヒュッゲ」。北欧には独自の概念に基づく多くの言葉がありますが、「ヒュッゲ」もそのうちの一つ。デンマーク語で「良い雰囲気」を表す言葉です。のんびりとした居心地の良い時間の過ごし方を大切にするライフスタイルは北欧の他の国々にもあり、スウェーデン語の「フィーカ」、ノルウェー語の「コス」なども幸福でゆったりとした時間に関係のある言葉です。
このように北欧では自分の時間を大切にし、シンプルながらも充実した時を過ごすライフスタイルが原則。それは厳しい冬があるからと言えるでしょう。外がマイナス気温の状態が続くと、自然と室内で過ごすことが増えます。室内を居心地の良い空間に作り替え、気持ちよく過ごせるように工夫をするのは北欧の人々の知恵の賜物なのです。
日本人も共感できる、北欧の言葉
北欧と日本は遠く離れていますが、共通した概念も存在します。例えばフィンランド語の「シス」はその最たるもので、「何かをやり遂げる強い意志」「勇気」「粘り強さ」などを意味します。
フィンランドの歴史には、スウェーデンに占領されたり、ロシアに侵攻された暗い時代があります。ロシアとの戦争後のフィンランドは土地を無くし、多額の賠償金を払わねばなりませんでした。そんな環境の中でもフィンランド人は粘り強く頑張り続け、現在は世界で最も幸福な国として知られるほどに。日本でも美徳とされる精神力は、7500km離れたフィンランドでも古くから受け継がれてきたんですね。
北欧の風土に根付いた言葉は、私たち日本人でも共感できる概念に基づいていることもあれば、馴染みがない新鮮な概念を表すことも。「ヒュッゲ」のようにシンプルな幸福を示すポジティブな言葉は、積極的に取り入れたいですね!
北欧の人々の距離感
ドイツやフランスなどのヨーロッパの中心部から離れた北欧の人々は、パーソナルスペースをしっかり保つことを好む傾向があります。それが顕著に表れるのがバス停での人々の並び方。もちろん人口の多い都会では事情は異なりますが、スペースが許す限り、人々は距離をあけて待つ光景がよく見られます。
この北欧独特の距離感は人間関係にも表れており、北欧で外国人が疎外感を感じやすい理由の一つにもなっています。そのため北欧の人々は冷たいと思われがちですが、シャイだったり初対面では寡黙だったりするだけで、親しくなれば暖かい心の持ち主であることが分かります。また、北欧の人々は無理やり仲良くなろうとしないのも特徴で、幸福度が高いのも人間関係をシンプルに保つことにより、悩むことが少ないからと言えるでしょう。
ジェンダーギャップと結婚観
幸福度が高いと言われる北欧の国々ではジェンダーギャップや結婚観に対しての考え方も独特です。明確に男女の役割を分けず、ジェンダーにとらわれずにできるだけ平等に。家庭や学校、社会や職場など、至るところでそのような取り組みが見られます。
興味深いのは、このような北欧の国々は決して昔からジェンダーギャップを埋めるのに熱心だった訳ではないということ。例えば、アイスランドの投票権が男性と同様に25歳以上から与えられるようになったのは1920年(現在は男女共に18歳以上)ですし、ノルウェーで産休や育休の期間が延長されたのはなんと1985年のことです。決して最初からジェンダーギャップが小さい訳ではなかった北欧諸国。現在は順調に女性の社会進出も進み、フィンランドのマリン首相のように重要なポストで活躍するパワフルな女性も増えました。
男女平等が進むにつれ、ライフスタイルも変わっていきました。籍を入れないままに家庭を持つカップルが増加し、戸籍上で結婚しているカップルとさほど差のない待遇を受けるようになったのです。子供ができても結婚せずに一緒に暮らしている家族は少なくありませんし、婚約から結婚まで5年以上かかることも珍しくありません。また、ここ数年はLGBTの権利にも意識が広がり、アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの5カ国全てにおいて同性婚が可能となっています。これにより、本来の自分を押し隠すことなく生活できるようになりました。
様々なお祝い
北欧の文化やライフスタイルは様々な行事の過ごし方にも表れています。特にそれが顕著なのは、イースターやミッドサマーなどの、暖かい季節に祝われる行事です。冬の間は室内にこもることが多いですから、春や夏などのお祝いごとは北欧の人々にとってまさに幸福そのもの。雪に覆われていた花木も一斉に色づき始め、自然もまるでお祝いに参加しているようです。
他にも興味深いのはメーデーが大掛かりなお祝いだということ。これは北欧でワーク・ライフ・バランスが大切にされていることの象徴でもあります。働きづめだと人生で本当に大切なことを見失いがちになり、「ヒュッゲ」な日常から遠ざかってしまいます。心を満足させる豊かな生活を大事にするのが北欧のライフスタイルなのですね。
もちろん、新年のお祝いやバレンタインデー、クリスマスなど、日本と過ごし方は異なるもののお馴染みの行事もたくさんあります。行事やお祝いと言えば贈り物を用意するのがどこの国でも当たり前ですが、北欧では何でもない日にちょっとしたものを贈ることも!友人や恋人、家族へのカジュアルなギフトとして花束、メッセージカード、ポスターなどがよく選ばれます。
また、北欧の贈り物文化には「心からの思いやり」が重要視されています。決して高価でなくとも、贈る相手のことを思いながら選び、手を加えることで、一層特別なものとなります。手作りの食べ物や、自分でデザインしたカードなど、独自のセンスを取り入れた贈り物が人気です。このような贈り物は、ただ物を贈るという行為よりも、相手への感謝や愛情を表現する手段として重要な位置を占めています。心を込めた贈り物は、関係性を深め、繋がりを強化するための美しい文化として、北欧の社会の中で大切にされています。
オンとオフの切り替え
一つ前の項目で触れた通り、ワーク・ライフ・バランスを保つことが重要視されている北欧諸国。均衡を保ったライフスタイルを心がけることは、各国の幸福度の高さにもつながっています。仕事はお金を稼ぐための、安心して生活を送るための人生の一面に過ぎなく、家族、友人、趣味、学問など、人生の他の要素も楽しむことを心がける人が多いのです。したがってオンとオフの切り替えが得意で、不本意に仕事人間になってしまう人は少ないのが北欧の人々の特徴です。仕事が趣味の人もいますが、そのような人は自ら望んで働いているのでしたくない残業に追われたり、本当は他のことにも時間を使いたいのに仕事のせいでできない……ということにはなりにくいのです。自分らしく生きるということがいかに北欧の人々にとって大切なのかがよく分かります。
さらに、北欧諸国の労働者は、仕事の効率と生産性を高めるための休息の重要性を理解しています。このため、定期的な休憩や短い労働時間、そして長期の休暇を取ることが奨励されています。これにより、彼らは仕事とプライベートの両方で満足することができるのです。北欧の企業文化は、従業員が生活の質を向上させるためのサポートをすることが重要だと考えています。結果として、仕事と家庭の間のバランスを取ることが、高い幸福感や満足度に直結しているのです。
働き方が幸せなライフスタイルにつながっているのにはいくつか理由があります。まず大きな理由として挙げられるのが、労働時間が短いということ。国にもよりますが、法律で定められている労働時間は週37から40時間で、サービス残業が許されるような余地はありません。労働組合や公的機関が目を光らせており、残業や休日出勤などの人件費が高く設定されているので、雇用者も所定時間以外の労働を良しとしないのです。
もう一つの主な理由は家族のあり方同様に、働き方の多様性が認められていることです。根底にある考えは、しっかり結果を出すならオフィス勤務でもリモートワークでも構わないという、合理的なものです。そのため、新型コロナウイルスのパンデミック以前から在宅勤務の体制が整っており、おかげでほぼ全面的な在宅勤務への移行もスムーズでした。スウェーデンのリサーチ会社Netigateの調査によると、スウェーデンでは7割以上の人が「パンデミック後はオフィス勤務とリモートワークの組み合わせを利用して働きたい」と答えており、柔軟な働き方への意欲が高いことが見て取れます。
自然との共生
北欧の人々にとっては、自然と共生するのもライフスタイルの大切な一面です。豊富な自然は幸福なライフスタイルを得るためのヒントでもあるのです。また、天候が厳しく、雨も頻繁に降る北欧では、人間が自然に合わせて生活していくようになったのも当然と言えます。
森林率の高い北欧の国々といえば、フィンランド(国土のうち73%が森林に覆われています)やスウェーデン(68%)があります。こうした国々では自然が身近な存在なので、「ちょっとそこの森へ散歩に」ということがいつでも可能。ウォーキングやジョギング、ハイキングなども日常生活の一部になっており、夏には森の中にあるサマーコテージで森林浴をします。一方、ノルウェーやアイスランドは岩盤地帯や氷河が多いため、森林率は決して高くありません。それでも自然が人々にとって身近なのには次のような理由があります。
「自然享受権」というものをご存知でしょうか?北欧ではベリーを摘んだり、きのこ狩りをしたり、テントで宿泊したりなどの自然を楽しむ活動は、誰にでも認められています。これは自然を大切にする範囲内であれば、私有地であっても立ち入って良いという権利です。法的にも自然と共生することが推進されているので、アウトドアスポーツも盛んです
この「自然享受権」は、北欧の人々が日常生活の中で自然とのつながりを保つ上で非常に重要な役割を果たしています。美しい湖や森、山々が豊富なスカンディナビアの風景は、心の平和やリラックスする場として利用されています。また、都市部に住んでいても、緑豊かな自然へのアクセスが簡単であるため、週末や休日には家族や友人と一緒に自然の中での時間を楽しむことが一般的です。このように、都市と自然が調和して共存している生活環境は、心の安定や幸福感を高める要因として、北欧の人々の生活の中心に位置しています。
こうした背景からも、北欧における環境問題やサステナビリティに対する意識の高さは当然だと言えます。特にProject Nordの故郷でもあるデンマークは、先に立ってサステナブルな社会の実現を目指しており、首都コペンハーゲンは自転車天国でもあります。泳いでも問題が無いくらい綺麗な湾があるだけでなく、収入がさほど高く無い人でも安心して暮らせる街、コペンハーゲンは様々な面でサステナブルであることが評価され、2021年の「生活の質が最も良い都市」に選ばれました。
北欧の人々が自然を愛しているのは、ライフスタイルへの影響を見ても明らかです。実は他にもリサイクルショップが人気だったり、お部屋のデコレーションに天然素材を取り入れることが一般的だったり、様々な北欧ライフスタイルの側面でそれが見て取れるのです。
北欧の食文化
北欧では自然の恵みを大切にします。「自然享受権」をフルに活用して森にベリー摘みしに入ったり、きのこ狩りをしに行ったり。ベリーは夏のおやつとしてぴったりな上に、冷凍して保存すれば、冬でも美味しいブルーベリーパイが焼けます。煮込んでジャムにする家庭も多いですし、ジュースやスムージーなどの飲み物にも使えます。きのこはソテーにしてもスープにしても楽しめます。猛毒のシャグマアミガサタケを毒抜きして食べる方法さえも編み出されたのですから、人間の食への執念を感じますね。
他に北欧の伝統料理でよく使われるのはライ麦やジャガイモなど、厳しい自然の中でも比較的育ちやすい食材です。特別な料理というより、シンプルな家庭料理が多いですが、心温まる「ヒュッゲ」なものばかり。北欧料理を食べられるレストランは多くはありませんが、リラ・ダーラナやIKEAレストランでぜひチェックしてみてください!
興味深い北欧の食べ物が沢山あるので全てご紹介したいところですが、それはきっとまた後日。最後に日本でもよく知られている「フィーカ」について少し記しておきましょう。「フィーカ」とはスウェーデン人にとって大切な人との交流の時間。北欧ではお茶よりもコーヒーが好まれますが、香りの良いコーヒーや軽食を楽しむことが日課になっています。こうした幸福なひとときのためには毎日、時間を作るべきだと考えるスウェーデン人も多いのだとか!日常の中でふと立ち止まり、ゆっくりと過ごす時間を持つことが北欧流ライフスタイルの要なのです。
北欧の人々が満足度の高い生活を送っている理由を探ってみましたが、いかがでしたか?
国が違えば当然、歴史や考え方も違うので全てを取り入れることはできませんが、良いと思ったものは積極的に参考にしたいですね!